「医師の働き方改革」でどう変わる?時間外労働の上限規制に注意!

2024年4月から「医師の働き方改革」が始まりました。時間外労働の上限規制に伴い、関係する諸制度も変化しています。この記事では、「医師の働き方改革」によって変わる労働時間とそれに関連する制度について解説していきます。
1.医師の残業事情
「医師の働き方改革」が推進される背景には、長時間労働が常態化し、休日の確保が困難な医師が多いことがあります。医師の労働時間が他業種と比べて長くなる理由として、医師の業務が多岐にわたること、勤務体系が特殊であることが挙げられます。まずは医師の平均労働時間や残業時間について解説します。
残業が多い?長時間労働の実態
厚生労働省が令和2年に調査した「医師の週あたりの労働時間」では、病院種別ごとに比較した時、週50~60時間までは大学病院の割合が低くなっています。しかし、週60時間以上では大学病院の割合が高くなっており、大学病院は長時間労働医師が多い傾向であることがわかります。
病院・常勤勤務医の週労働時間の病院種別
(令和2年 医師の勤務実態調査)

厚生労働省「令和2年 医師の勤務実態について」
また、性・年代別の週当たり勤務時間が60時間以上の割合を見ると、いずれの年代においても男性の割合が女性よりも多くなっています。20代では、週当たり勤務時間60時間以上の割合は、男女で大きな差は見られませんが、30代以上は男女の差が大きくなっています。
週当たり勤務時間が60時間以上の病院・常勤勤務医の割合

残業が多い科目は?
週当たりの労働時間が60時間以上の病院・常勤勤務医を科目別に割合でみてみます。60時間以上の割合が多い上位3科は脳神経外科(53.0%)、外科(50.9%)、救急科(49.5%)となっています。逆に週の60時間以上の割合が少ない下位3科は臨床検査科(6.3%)、精神科(19.0%)、リハビリ科(21.1%)となっており、科目間で2倍以上の差が生じています。
科目別 労働時間60時間(週)以上の病院・常勤勤務医の割合

厚生労働省「令和2年 医師の勤務実態について」
医師の残業時間が多くなってしまう理由
医師の残業時間が多くなる要因の一つとして、宿直勤務があげられます。救急対応等が発生した場合は休憩時間であっても対応しなければならず、労働時間が長くなります。
病院・常勤勤務医の月当たり宿直回数の割合でみると、0回(43%)、1~4回(43%)、5~8回(12%)となっています。宿直回数が増加すると診療時間と診療外時間には大きな変化はありませんが、待機時間が顕著に増加しています。
月当り当直回数

宿直回数別の労働時間

厚生労働省「令和2年 医師の勤務実態について」
2.働き方改革でどう変わる?時間外労働の上限規制
「医師の働き方改革」の一番のポイントは、時間外労働の上限が設定されることです。これまで医師の残業時間には制限がなかったため、際限なく働けてしまう状況でした。長時間労働になりやすい現状を是正するために始まったのが「医師の働き方改革」です。
一般企業の働き方改革は2019年から始まりました。しかし医療機関については、医師の労働環境の見直しには時間を要すると考えられたことから5年間の猶予が与えられ、2024年4月から適用が開始されることになりました。
時間外労働の上限規制とは
では実際、どのような上限が適用されたのでしょうか。医師における時間外労働時間の上限には5つの水準(A水準+4つの特例水準(後述)が設けられています。
36協定を締結した場合における時間外労働時間の上限は、一般企業と同様に原則的な残業時間の上限は「月45時間、年360時間」となっています。一般企業の基準との違いは、臨時的に時間外労働が必要とされるため、各水準ごとに時間外労働時間の上限が設定されています。
水準 | 労働時間の上限 |
---|---|
共通 | 月45時間以下 年360時間以下 |
A水準 | 年960時間以下 (休日労働を含む) |
B水準 連携B水準 |
年1860時間以下 (休日労働を含む) |
C-1水準 C-2水準 |
年1860時間以下 (休日労働を含む) |
医師ならではの働き方改革
一般的な働き方改革では、時間外労働について下記のような制限があります。
- ①月45時間を超えていいのは最大6カ月まで
- ②直近2ヵ月〜6ヵ月は平均80時間以内とする
- ③月100時間未満の範囲のみ認める など
しかし、医師の場合は①、②が定められていないほか、③については面接指導を受けることで100時間を超える時間外労働が可能です。
医師の働き方改革に制限が少ない背景には、医療は公共事業の一種であり、年中無休で提供されるべきという考えがあります。
3.特例水準とは
「医師の働き方改革」では、医療機関ごとに異なる上限規制が設定されています。ここからは特例水準について確認してみましょう。
特例水準とは
医療機関では、救急医療への対応力や所属する医師の特性により、特例水準が設定されます。
A水準・B水準・C水準の3つの水準があり、原則としてすべての医療機関がA水準に該当します。B水準は地域医療暫定特例水準とも呼ばれ、救急機関や救急車の年間受け入れ台数が1,000台以上などの条件を満たす医療機関に適用されます。C水準には、高度技能の習得や臨床研修に用いられる医療機関があてはまります。
水準 | 適用される条件 | 長時間労働が 必要な理由 |
---|---|---|
A 水準 |
全ての施設で原則適用 | (臨時的に長時間労働が 必要な場合の原則的な水準) |
連携 B 水準 |
地域医療確保の為に 医師派遣を行う病院 |
地域医療の確保のため、 派遣先の労働時間を 通算すると長時間労働となるため |
B 水準 |
救急医療や高度な癌治療など自院内で 長時間労働が必要な病院 |
地域医療の確保のため |
C-1 水準 |
臨床研修医、専門研修医の雇用施設 | 臨床研修・専攻医の研修のため |
C-2 水準 |
特定高度技能研修者の雇用施設 | 高度な技能の修得のため |
※月100時間未満の上限もあります(面接指導の実装による例外有。)
厚生労働省「医師の働き方改革解説スライド(基礎編)」より
水準ごとの上限規制の違い
地域医療を守るためにも医師の労働時間について各水準ごとに上限規制が設けられました。これは長時間労働の中でも勤務医の健康を守るためのルールでもあります。
- 医師への、面接指導のルールが新しく設けられた。
時間外・休日労働が月100時間以上が見込まれる医師
- 長時間勤務時にも適切な休息を確保するためのルール
・連続勤務時間の制限(28時間) ・勤務間インターバル(9時間以上)
水準ごとの時間外労働の上限は、下の表のように決められています。A水準とそれ以外で上限時間が違うほか、B水準とC水準では、連続勤務時間の制限(28時間)と勤務間インターバル(9時間以上)の確保が義務付けられています。
水準 | 年の 上限時間 |
面接指導 | 連続勤務時間制限 勤務間インターバルの確保 |
---|---|---|---|
\ すべての医師に 原則適用 /A水準 |
960 時間 |
義務 | 努力義務 |
連携 B水準 |
1,860 時間 (各院では960時間) |
義務 | 義務 |
B水準 | 1,860 時間 |
義務 | 義務 |
C-1 水準 |
1,860 時間 |
義務 | 義務 |
C-2 水準 |
1,860 時間 |
義務 | 義務 |
※月100時間未満の上限もあります(面接指導の実装による例外有。)
厚生労働省「医師の働き方改革解説スライド(基礎編)」より
4.給料はもう上がらない?注目が高まる「宿日直許可」求人
「医師の働き方改革」で労働時間が限られる中、「宿日直許可あり」求人が注目されています。「宿日直許可あり」求人は診療時間外は労働時間にカウントされないため、制限を気にせず収入を確保できるメリットがあります。
労働時間にカウントされない「宿日直許可」とは?
「宿日直許可あり」求人とは、労働基準監督署長の許可を受けた医療機関が募集している宿日直の求人のことです。労働時間規制の適用外で、断続的な業務(宿日直)が対象となります。上限規制を考慮せずにアルバイトできるため、現在需要が高まっている求人です。
- 宿直中の手待ち時間も、原則は労働時間になる。
- 医療機関が労働基準監督署による宿日直許可を受けている場合は、その宿日直に携わる時間は規制の対象となる労働時間に含まれない。
厚生労働省「医師の働き方改革解説スライド(基礎編)」より
宿日直許可求人で働いたときの勤務イメージ
宿日直許可なしの求人で勤務した場合、下のイラストのとおり、連続勤務時間が28時間に達した段階で、18時間の勤務間インターバルが必要となります。一方で、宿日直許可ありの求人で勤務した場合、途中の9時間分の宿日直が労働時間にカウントされず休憩とみなされるため、28時間の制限が発生しなくなります。


宿日直許可の取得状況
宿日直許可を取得する医療機関が増えており、求人数も増加していくと予想されますが、人気が高く応募が集中することが見込まれます。
医師バイトドットコムでは、会員登録することで、好条件の非公開求人を優先的にメールで受け取れるほか、コンサルタントにキャリア相談を行いながら求人紹介を受けることも可能です。「宿日直許可あり」求人をお探しの場合はぜひご活用ください。
<参考文献>
- 厚生労働省「医師の働き方改革解説スライド(基礎編)」より(https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/commentary_slide)
- 厚生労働省「令和2年 医師の勤務実態について」より(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000677264.pdf)
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ライター 医師マーケティング部
編集担当 - 医師のアルバイト探し応援コンテンツを提供する「医師バイトドットコム」の編集担当です。医師アルバイトの求職支援サービスを提供する株式会社メディウェルが運営しています。
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