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「名義貸し」は特に要注意~「雇われ院長」の法的リスク~【荒木弁護士解説】

「名義貸し」は特に要注意~「雇われ院長」の法的リスク~【荒木弁護士解説】

1.はじめに

クリニックの開設者別~「雇われ院長」の法的リスク~」では、クリニックの開設者別の雇われ院長の違いについて解説しました。

今回の記事では、雇われ院長の名義貸しのケースなど法的リスクが特に高く、注意を要する形態について解説します。

2.雇われ院長の名義貸しとは?

雇われ院長の名義貸しのケースについて、耳にしたことはあるものの、具体的なリスクについてまでは知らない方も少なくないと思います。

いわゆる雇われ院長の名義貸しと呼ばれるケースについては、筆者が知る限り次の2つのケースに分けられます。

(1)管理者の実態がないのにクリニックの管理者に就任するケース

クリニックの管理医師は原則として勤務時間中クリニックの常勤であることが必要。

クリニックは、臨床研修等修了医師に管理させることが法律上義務付けられています。(医療法10条1項)この診療所を管理する医師のことを管理医師と呼び、管理医師が院長に就任することが一般的です。

そして、管理医師は、クリニックの管理の法律上の責任者であるため、医療法に定めのある責務を果たすために、原則として勤務時間中に常勤であることが求められています。

そのため、少なくとも全くの勤務実態がないのに診療所の管理者に就任することはできません

しかしながら、クリニックの常勤医師を確保することの困難さから、勤務実態のない管理医師への就任を求められるケースがあるのが実情です。

また、医療法に違反した場合には刑事罰も定められています。診療所の臨床研修等修了医師による管理義務を定めた医療法10条に違反した場合には、20万円以下の罰金刑が定められています(医療法89条1号)。

2013年の報道ですが、東京の美容形成外科医院に院長として名義を貸していたとして、警視庁生活環境課は12日、名古屋市の男性医師(35)と三重県桑名市の男性医師(62)を医療法違反(管理義務など)の容疑で書類送検したことが報道されています。

(2)開設者の名義貸しのケース

雇われ院長がクリニックの開設者にもなってしまったということを聞いたことはありませんか。「クリニックの開設者別~「雇われ院長」の法的リスク~」で説明したとおり、クリニックの開設者は、医療機関の開設・経営に関する責任主体という位置づけになります。

開設者になることを求められる具体的な状況としては、以下のケースがあります。なお、紹介するケースは一例であり、あらゆるケースを網羅するものではありません。

ケース1

非医師がクリニックの実質的な経営者の場合で「雇われ院長」にクリニックの管理者だけでなく雇われ院長個人が開設者となることを求めるケース。

クリニックの実質的な経営者が、非医師の個人や株式会社等の営利法人の場合、クリニックの開設者となることができないため、「雇われ院長」に就任する医師個人にクリニックの管理者に加えてクリニックの開設者となることも求めるケースです。

ケース2

クリニックのオーナーは、医療法人等のクリニックの開設主体となる法人を有しているが、クリニックの開設を急ぐため個人開設を求めるケースです。

医療法人が分院を開設する場合、都道府県から定款変更の認可を受ける必要がありますが、定款変更の認可だけでも3か月程度要するなど手続きに時間を要します。

他方で、医師個人がクリニックを開設する場合には、医療法第8条による届出を開設後10日以内に提出する必要がありますが、医師個人による開設の方が手続きが簡便であるため、クリニックを予定通りにオープンさせるためなどの理由で「雇われ院長」にクリニックの開設者となることを求めるケースです。

例えば、求人に「最初は個人開設です」などと書かれている場合は要注意です。また、分院化する場合には、手続きに時間を要するため中々分院化されずに個人開設の状態が続いてしまうリスクがあります。

雇われ院長の名義貸しの2つのケース

3.「雇われ院長」がクリニックの開設者になってしまった場合のリスク

クリニックの開設者別~「雇われ院長」の法的リスク~」で解説したとおり、医療機関の開設者は、医療機関を開設・経営する意思を有していること、開設者が他の第三者を雇用主とする雇用関係(実質的に同様の状態を含む)にないことが求められています。

すなわち、「雇われ院長」が開設者となってしまうと、対外的には、開業医と同様に医療機関の経営者として扱われるということになります。

開業医と同様に医療機関の経営者として扱われるということは、クリニックの業務に関するあらゆる契約の名義が開設者となった医師個人の名義になってしまうリスクがあります。

以下、例を挙げて具体的に説明します。以下は、一例であり全てのケースに当てはまるものではありません。

・クリニックが入居するテナントの賃貸借契約書の賃借人

賃借人として賃貸人に対して賃料支払義務、退去時の原状回復義務等の賃借人としての義務を負担します。

・医療機器等のリースに関する契約書

医療機器を個人で借りる場合は、対象が医療機器という特性上、医師個人にしか貸さないという会社もあります。

・雇用契約書

クリニックに勤務する職員の雇用契約書

・患者との診療に関する契約書


なお、多く寄せられる質問ですが、医師が実質的オーナーとの間で「クリニックの事業に関する債務は、全て実質的なオーナーが負担する」という取り決めをしていたとしても、このような裏側の事情は、実質的オーナーと雇われ院長以外の第三者(テナントの賃貸人や職員、患者など)には関係ありません。

契約の当事者は、契約の名義人である医師に対して、契約に基づき債務の履行を請求できます。

クリニックの経営が悪化し、実質的オーナーがクリニックの債務の支払いができなくなると、医師個人がその債務を負担するリスクが顕在化してしまうことがあります。

実際に、「雇われ院長」がクリニックの業務に関する契約の名義人となり、契約上の債務の履行を請求された裁判例を紹介します。

【判例紹介】

クリニックの名義上の開設者となった医師がクリニックが発注した検査料金約226万円及び遅延損害金の支払いを命じられた判決

東京地裁平成25年4月26日判決(東京地裁平成23年(ワ)37002号)

検査会社である原告がクリニックの開設者であった医師に対して、がん遺伝子検査の料金約240万円及び遅延損害金の支払を求めた事案です。

裁判の中で、医師は、雇われ院長であってクリニックの経営に関与していないなどと主張しましたが、裁判所は、医療法は開設者と医療機関の開設・経営の責任主体とが実質的に異なるといった事態は想定しておらず、クリニックの名義上の開設者となった以上、被告となった医師は、自己の名をもって同クリニック業務に係る各種契約を締結することに同意したといえるので、検査受託契約が成立し、料金についても合意がなされているとして、医師個人に対して院長在任中に受託した検査にかかる料金の支払が命じられました。

この判例のように雇われ院長であってクリニックの経営に関与していない場合でも、クリニックの開設者となってクリニックの業務に関する契約の名義人になった以上、契約の相手方に対して契約に基づく債務を履行する義務を負うリスクがあります。

そして、クリニックの開設者となってしまった場合、「雇われ」院長を辞める場合にも問題が生じます。

先述した賃貸借契約やリース契約などクリニックの業務に関して自己が名義人となった契約がある場合には、契約の名義を承継する医師や法人に変更したり、解消したりするなどして、クリニックの業務に関する債務を負担しないようにする必要がありますが、契約の相手方とのやり取りや書類の取り交わしには時間を要します。

筆者の経験でもクリニックの業務に関するあらゆる契約を終了又は承継するのに1年以上の時間を要しました。

このように、ひとたびクリニックの名義上の開設者となりクリニックの業務に関する契約の名義人になってしまうと、その状態を解消することに困難を伴うため、事前に慎重に確認し、疑問点が生じたら都度疑問点を解消することが重要です。

<参考資料>

弁護士 荒木 優子
https://araki-law.com/
第二東京弁護士会所属。勤務医の労務問題やクリニック運営に関する法律相談などが専門。医師の労働問題に関してSNSやメディアで日常的に発信し、X(旧Twitter)でのフォロワー数は1.2万人以上。

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