医師が宿直を掛け持ちできる制度に?検討中のオンライン宿直・医師の宿直兼務の議論の状況【荒木弁護士解説】
2025年5月27日「宿直医、複数病院の掛け持ち可能に 人手不足解消へ厚労省が容認 」というニュース記事が出ると、SNSでも大変話題になりました。医師の宿直の複数病院の兼務が可能になるのか、現在どのような検討がされているのか解説します。
まず、オンライン宿直や宿直医師の複数病院兼務という事項は、内閣府に設置された規制改革推進会議の健康・医療・介護 ワーキング・グループの会議において提案され、議論がされています。
2025年3月31日に開催された、第3回 健康・医療・介護ワーキング・グループでは、2つの議題が提案されましたが、そのうちの1つが 「地域における病院機能の維持に資する医師の宿直体制の見直しについて」 という内容でした。
会議資料及び会議の議事録によると、オンライン宿直、宿直医師の複数病院兼務を提案したのは、熊本県内の熊本市内から車で40分程の距離にある99床の病院を有する医療法人でした。
同病院の宿直の体制は、火曜日から金曜日は常勤医が担当し、土曜日から月曜日は非常勤医師が担当しているものの、非常勤医師については以前は大学医局からの医師派遣を受けていたところ、働き方改革により医局からの派遣が難しくなることを想定して大学からの依存度を下げている状況とのことです。
平日の宿直の対応状況については、宿直1回あたりの平均対応件数は0.78回であり、2024年の対応件数190件のうち死亡退院が54件、緊急入院が9件、緊急搬送が1件、その他が126件という状況とのことでした。
また、同病院から車で1~15分程の距離には、41床から155床の3つの医療機関があり、いずれも地域医療、かかりつけ医療を提供し、2次救急、3次救急や高度な医療は提供していないとのことです。
これらの近隣の4病院の宿直を2名の宿直医師が遠隔かつ兼務で対応するイメージとのことです。
【宿直体制のイメージ図】
近隣の医療機関も宿直医師の確保に苦慮する一方で、ICT技術の進展により、医師が遠隔で患者の状況を把握し、看護師等への指示を出すことも可能となっていることが今回のオンライン宿直、宿直医師の複数病院兼務の規制緩和の要望の背景にありました。
まず、病院における医師の宿直義務について法律上の根拠を確認しておきたいと思います。
医療法に定めがあり、医療法第16条本文には、医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならないと定められています。
医療法において「病院」とは、20床以上の病床を有するものと定められています(医療法第1条の5第1項)。
医療法第16条
医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない。
ただし、当該病院の医師が当該病院に隣接した場所に待機する場合その他当該病院の入院患者の病状が急変した場合においても当該病院の医師が速やかに診療を行う体制が確保されている場合として厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。
今回、着目してほしいのは、ただし書、例外規定です。
医療法第16条のただし書には、「当該病院の医師が当該病院に隣接した場所に待機する場合その他当該病院の入院患者の病状が急変した場合においても当該病院の医師が速やかに診療を行う体制が確保されている場合として厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。」と規定されています。
以下のように例外的に医師を宿直させなくて良い場合が定められています。
原則:病院に医師を宿直させなければならない。
例外:以下の場合には、例外的に病院に医師を宿直させなくてよい。
「厚生労働省令で定める場合」とは、医療法施行規則において規定されています。
医療法施行規則9条の15の2では、「(医療)法第16条の厚生労働省令で定める場合は、病院の入院患者の病状が急変した場合においても当該病院の医師が速やかに診療を行う体制が確保されているものとして当該病院の管理者があらかじめ当該病院の所在地の都道府県知事に認められた場合とする。」と定められています。
すなわち、所在地の都道府県知事より「病院医師宿直免除」の許可を受けることが必要です。
もっとも、医療法施行規則の規定も抽象的でどのような場合に認められるのか基準が読み取れないと思います。
具体的な取り扱いについては、厚労省の通知「介護保険法施行規則等の一部を改正する等の省令の施行について(施行通知)」(平成30年3月22日付け医政発0322第13号厚生労働省医政局長通知)に記載があります。
同通知では、医療法第16条の医師の宿直義務の例外規定について、以下のように記載されています。
① 隣接した場所に待機する場合
ア 「隣接した場所」の定義
隣接した場所とは、その場所が事実上当該病院の敷地と同一であると認められる場合であり、次の(ア)又は(イ)いずれかの場所を指すこととする。
(ア) 同一敷地内にある施設(住居等)
(イ) 敷地外にあるが隣接した場所にある施設(医療機関に併設した老人保健施設等) ※公道等を挟んで隣接している場合も可とする。
イ 「待機する」の定義
待機するとは、患者の急変時に速やかに緊急治療を行えるよう、備えていることを指すこととする。
② ①に該当しない場合であっても速やかに診療が行える体制が確保されているものとして当該病院の所在地の都道府県知事が認める際の具体的な基準は次のア~エのすべてを満たすものとする。
ア 入院患者の病状が急変した場合に、当該病院の看護師等があらかじめ定められた医師へ連絡をする体制が常時確保されていること。
イ 入院患者の病状が急変した場合に、当該医師が当該病院からの連絡を常時受けられること。
ウ 当該医師が速やかに当該病院に駆けつけられる場所にいること。 特別の事情があって、速やかに駆けつけられない場合においても、少なくとも速やかに電話等で看護師等に診療に関する適切な指示を出せること。
エ 当該医師が適切な診療が行える状態であること。 当該医師は適切な診療ができないおそれがある状態で診療を行ってはならない。
なお、都道府県知事が認めた後に上記ア~エのいずれかの事項に変更があった場合は、再度都道府県知事の確認を要することとする。
筆者が都道府県知事の許可により病院医師宿直免除の事例を調べたところ、大阪府内の56床の病院が大阪府より「病院医師宿直免除」の許可を受けたことを公表していました。
同病院によれば、デジタル化により、当番医師と夜勤看護師の間で情報共有およびコミュニケーションが円滑に行える体制を構築したことが評価されたとのことです。
このように、現在の制度の下でも都道府県知事の許可を得ることにより、病院における医師の宿直の免除を受けることが可能です。
医療法第16条の医師の宿直義務の例外規定により、医師が院外で待機することについては許容される余地があるものの会議における厚労省の審議官の説明によれば、厚労省の通知では、宿直の兼務を想定したものではないとのことであり、現行の制度の下では、宿直の兼務は許容されていないということになります。
規制改革推進会議が2025年5月28日にまとめた規制改革推進に関する答申において、医師の宿直体制の見直しについては以下のように記載されています。注:太字は筆者による。
a:令和7年措置
厚生労働省は、医療法第16条及び医療法施行規則第9条の15の2の規定による病院での医師の宿直義務及びその例外規定に関して、当該例外規定の具体的な取扱いを定める施行通知において示されている「当該医師が速やかに当該病院に駆けつけられる場所にいること」を前提とした上で、「特別の事情があって、速やかに駆けつけられない場合においても、少なくとも速やかに電話等で看護師等に診療に関する適切な指示を出せること」には、オンラインによる対応を含む、電話以外の情報通信機器を用いた対応も含まれることについて明確化し、周知する。
b:令和7年度上期検討開始、遅くとも令和9年度結論・措置
厚生労働省は、医療法第16条及び医療法施行規則第9条の15の2の規31 定による病院での医師の宿直義務及びその例外規定に関して、緊急治療に支障を来さないようにするという医師の宿直義務の規定の意義を確保しつつ、例えば、入院患者の特性等により宿直する医師が常に対応を求められる状況ではなく、近隣医療機関との協力の下、集中治療や手術等が必要となった場合の高度な救急医療を提供する施設等への搬送等を含む緊急時対応の協力体制が確保されている病院において、宿直医師を確保するために診療体制を縮小するなどの影響が出ている場合又は当該影響が出るおそれがある場合などを念頭に、地域における医療提供体制を維持する観点から、病院の管理者及び速やかに診療を行う体制が確保されていることを確認する都道府県知事の判断として、オンラインによる対応を含む、電話以外の情報通信機器を用いた対応やカルテ情報の共有等のICT技術を活用することで、複数の病院の宿直対応を遠隔かつ兼務で行うことが可能となる要件等を検討し、遅くとも令和9年度中に結論を得次第、速やかに所要の措置を講ずる。その際、合理性に乏しい地域的差異を設けるローカルルールの発生防止に留意するものとする。
答申の内容によると、宿直の例外規定に関して、宿直のオンライン対応については令和7年(2025年)の措置として、複数病院の宿直対応を遠隔かつ兼務で行うことについては令和7年度上期検討開始、遅くとも令和9年度結論・措置という状況となっています。
答申の内容からも明らかなように、ニュースで話題となった複数病院の宿直対応を遠隔かつ兼務で行うことについては、今後検討されるという状況ですので、議論の進行に注目していきたいと思います。
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