<医道審議会>医師が免許取消や医業停止になるケースとは?医師の不祥事の行政処分の法的根拠と基準【荒木弁護士解説】
医師や歯科医師が犯罪行為や診療に関して不正を行った場合に医道審議会で審議され、最も重い場合には、免許取消の処分を受けることを耳にしたことがありますか?
この記事では、医師に対する行政処分の法的根拠や医道審議会の直近約5年間の事例について紹介します。
医師法第2条で「医師になろうとする者は、医師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない。」と規定されており、医師国家試験に合格することが医師免許を受けるための必須の要件とされています。
一方で、医師免許を受けることの妨げになる要件があり、医師法第4条には、相対的欠格事由が定められています。相対的というのは、該当者には絶対に免許が与えられない絶対的欠格事由と異なり、該当者には厚生労働大臣の裁量によって免許が与えられないことがあるという意味です。
相対的欠格事由は、医師法第4条に規定されています。
医師法第4条
次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
三 罰金以上の刑に処せられた者
四 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者
注)条文のマーカー箇所は筆者による。以下同様。
そして、本記事の本題である医師に対する行政処分について規定された医師法第7条には、以下のように規定されています。
医師法第7条
医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 三年以内の医業の停止
三 免許の取消し
2 前項の規定による取消処分を受けた者(第四条第三号若しくは第四号に該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつた者として同項の規定による取消処分を受けた者にあつては、その処分の日から起算して五年を経過しない者を除く。)であつても、その者がその取消しの理由となつた事項に該当しなくなつたときその他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至つたときは、再免許を与えることができる。この場合においては、第六条第一項及び第二項の規定を準用する。
3 厚生労働大臣は、前二項に規定する処分をするに当たつては、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。
〈4項以下省略〉
医師が医師法第4条の相対的欠格事由に該当するか、医師としての品位を損するような行為のあったときは、厚生労働大臣は、裁量によって、免許取消、3年以内の医業停止又は戒告の行政処分を行うことができます。
4条の相対的欠格事由について、3号「罰金以上の刑に処せられた者」と4号「前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者」について解説します。
3号の「罰金以上の刑に処せられた者」とは、判決の言渡し後、判決が確定した者を意味します。罰金以上の刑とは、死刑、拘禁刑、罰金を指します。なお、2025年6月から懲役と禁固は、拘禁刑に一本化されました。
4号の「医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者」についても解説します。「医事」とは、医学・医療に関する事項を意味します。医事に関する不正行為として代表的なものは、診療報酬の不正請求が挙げられます。
行政処分の種類は、①免許取消し、②医業停止、③戒告の3つです。
免許取消しとは、将来に向かって免許の効力を消滅させることを意味します。
医業停止とは、医業を禁止することを意味します。
戒告とは、反省を促すことを意味します。
医師や歯科医師が医業停止や免許取消の行政処分の取消を求めた裁判例を紹介します。
抗がん剤の過剰投与により患者を死亡させた医療事故に関して、禁錮2年・執行猶予3年の有罪判決を受けた医師に対して、厚生労働大臣が「罰金以上の刑に処せられたため。」及び「医事に関し不正の行為のあったため。」を理由として当該医師に対してした3年6か月間の医業停止の処分が適法であるとして処分の取消請求が棄却された裁判例(東京地裁平成18年2月24日判決・判例タイムズ1251号166頁)
医院院長である医師原告が、医療等の用途以外の用途に供するため指定薬物である亜硝酸イソブチルを含有する液体を外国から輸入して所持した行為等について、薬機法違反及び関税法違反の罪により、懲役3年、執行猶予4年の有罪判決に処せられ、厚労大臣から、医師法4条3号に該当するに至ったことを理由に3年間の医業停止処分を受け、その取消しを求めた事案。
裁判所は、刑事罰の対象行為の悪質性を看過できず、有罪判決の量刑をみても軽いものではない上、医師として薬物の効能や危険性を十分に認識し、規制について高度の規範意識を有すべきであったのに指定薬物の輸入等及び所持をしたことが、医師の社会的信用を失墜させることは明らかといえ、有利な事情を考慮しても処分が重きに過ぎるとはいえず、厚労大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用は認められず処分は適法として請求を棄却した。(東京地裁令和4年7月8日判決・令和3年(行ウ)第111号)
歯科医師免許を有し、矯正歯科クリニックを経営していた原告が、同クリニックの歯科助手であった女性(被害者)に対し、飲食店で飲酒後、抱き付いて壁に押し付けた上、約10分間にわたり被害者の陰部を直接触った上、執拗に被害者をマンションに連れ込もうとして転倒させ、全治10日間を要する傷害を負わせ、強制わいせつ致傷罪により懲役3年、執行猶予4年の有罪判決を受けたことにより歯科医師免許取消の処分を受け、その取消を求めたが、歯科医師の立場にありながら悪質な犯行に及び、その社会的信用を失墜させたといえるから、歯科医師として適格性を有しないとの評価を受けてもやむを得ず、免許取消処分を選択したことにつき、厚労大臣に裁量権の逸脱、濫用は認められないとして請求を棄却した事例。(東京地裁令和3年10月19日判決・令和元年(行ウ)第368号)
厚生労働大臣は、医師に対する行政処分をなすにあたっては、あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならないと定められています。(医師法7条3項)
医道審議会医道分科会は、「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」において、次のような行政処分の考え方を類型毎に示しています。
行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定されるが、以下のような医療に関する法令に違反する場合には重く処分されること。
・医師法、歯科医師法違反(無資格医業、無資格歯科医業の共犯、無診察治療等)
・保健師助産師看護師法等その他の身分法違反(無資格者の関係業務の共犯等)
・医療法違反(無許可開設の共犯等)
・薬事法違反(医薬品の無許可販売又はその共犯等)
・麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反、大麻取締法違反 (麻薬、向精神薬、覚せい剤及び大麻の不法譲渡、不法譲受、不法所持、自己施用等)
⇒麻薬等の薬効の知識を有し害の大きさを認識しているがゆえに重く処分される。
・診療報酬の不正請求
健康保険法に基づく保険医等の登録の取消処分を受けた医師については、医師法による行政処分も行われる。
その行政処分の程度は、診療報酬の不正請求により保険医の取消を受けた事案については、当該不正請求を行ったという事実に着目し、不正の額の多寡に関わらず、一定の処分とする。ただし、特に悪質性の高い事案の場合には、それを考慮した処分の程度とする。
診療報酬の不正請求については不正の額の多寡に関わらず、一定の処分とするという考え方が取られている点に注意が必要です。
健康保険法等の検査を拒否して保険医の取消を受けた事案については、より重い処分を行う考え方が示されています。
最も気になるのがどのような犯罪や不正行為を行うとどのような行政処分を受けることになるかということだと思います。
医道審議会の答申の内容については、厚生労働省のウェブサイト上で公開されており、2025年10月時点で2001年5月30日まで遡って公開されています。2019年以降の医道審議会の議事要旨からピックアップして紹介します。
なお、公開されているのは議事要旨のみで、個々の事案の具体的な行為の内容については、公開されていません。
診療報酬不正請求、詐欺…医業停止(3年、9月、3月)※診療報酬不正請求のみの場合は、医業停止3月。
精神保健指定医の指定申請時における不正、精神保健指定医の指導医としての不正…医業停止1月
医師法違反…医業停止(2年、8月、3月、2月)
業務上過失致死…医業停止(1年9月、1年、3月)
業務上過失障害…医業停止2月、戒告
件数が多く、危険運転の場合には処分が重くなる傾向。
道路交通法違反のみ…医業停止1月~5月、戒告。医業停止4月が最多
過失運転致傷、道路交通法違反…医業停止2年~戒告
危険運転致死傷、危険運転致傷…医業停止1~3年。医業停止3年が多い。
麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反…医業停止3年が多い。免許取消の事例もあり。
大麻取締法違反のみの場合…医業停止1年~1年6月
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反…戒告が多数。なお、青少年健全育成条例違反と併せて免許取消の事例あり。
強制わいせつ・準強制わいせつ…医業停止3年が多い。免許取消の事例もあり。
傷害…戒告が多い。重い処分は、医業停止8月の事例あり。
現住建造物等放火、非現住建造物等放火…全て免許取消
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いかがでしたでしょうか。
厚生労働省のウェブサイト上で公開されている情報からでも、不正や犯罪行為の内容と科される行政処分の内容の大まかな傾向が分かると思います。
SNS等でも、〇〇は、医業停止にならないのか、免許取消ではないかという意見もみられますが、過去の事例からでも行政処分の対象になり得るものとそうではないものの傾向が分かると思います。
他方で、医師法違反など法律名のみ掲載されている場合もあり、具体的な違反行為の内容をイメージすることが難しいものもあり、筆者においても引き続き調査をしたいと考えています。
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