就業規則どおり半年前に申し出なくても良い?知っておかないと損する医師の退職時の注意点【荒木弁護士解説】
今回は、勤務先や現在の状況別に知っておかないと損する医師の退職時の注意点やよくある誤解について解説いたします。
「医師が退職する理由や退職時によくあるトラブルは?医師1,901名への退職アンケート結果」(以下、「アンケート結果」といいます)でも、
教授や院長からの強い慰留に遭った
後任の医師が決まるまで退職させて貰えない など
勤務医の場合はなかなか退職できないという悩みが多いことが伺えます。
もっとも、退職時の慰留の程度や今後のキャリアへの影響等は、勤務医のドクターそれぞれの置かれた状況により大きく異なります。
また、知っておかないと退職時に損をする大変多い誤解や交渉時のポイントについて解説しますので是非最後までお読み下さい。
・期間の定めの無い雇用契約※の場合、勤務医は、医療機関に対していつでも退職を申し出ることができ、申し入れの日から2週間経過後に雇用契約が終了します(民法627条1項)。
※期間の定めの無い雇用契約とは?
無期雇用のことを意味し、一般的には、正規職員がこれに該当します。
雇用契約書の雇用契約の期間の欄には、「期間の定め無し」と記載されるのが一般的です。
・期間の定めのある雇用契約※の場合、勤務医は、期間満了まで勤務しなければならないのが原則です。なお、有期雇用契約の場合でも一方的に退職可能です。
しかしながら、期間の定めがある雇用契約の場合でも「やむを得ない事由」がある場合には、期間の途中でも退職することが可能です(民法627条2項)。
「やむを得ない事由」とは、例えば、労働者が病気や事故によって長期間就労ができない場合や使用者の賃金未払いや労基法違反で就労が困難な場合を指すと解されています。
※期間の定めのある雇用契約とは?
有期雇用のことを意味し、一般的には、正規職員以外の、非常勤、契約職員、アルバイトなどがこれに該当します。
雇用契約書の雇用契約の期間の箇所に、例えば令和7年4月1日から令和8年3月31日など具体的な期間が記載されています。
なお、上記解説は、勤務医が一方的に医療機関を退職する場合ですので、勤務医と医療機関の合意があれば、法律上の予告期間に拘束されずに即日合意による退職も可能です。
そもそも、「円満退職」というのは、抽象的かつ相対的な概念に過ぎません。また、医局や医療機関が医局員や勤務医の退職に強い難色を示す場合、余裕を持った退職の申出をしても、円満退職できる保証はありません。
先のアンケート結果を見ても、医療機関の意向に沿っても円満な退職には至らなかった、慰留の際に提示された条件も守られなかったという回答がありました。
いつでも戻っておいで、は嘘。あと一年いてくれたら笑顔で送り出すと言われて一年退職を延期したが、笑顔で送り出してもらえなかった。(40代男性、産婦人科)
年俸を増やすと言われ、インセンティブも付けると言われたが、後日になってインセンティブの条件を厳しくされ、ほぼインセンティブ無しも同然にされた事は、悪い意味で極めて印象的だった。(60代男性、整形外科)
雇用契約を締結している場合で、無期雇用の場合、最初のQ&Aの箇所で解説したように法律上は2週間前に申し出ることにより退職できます。もっとも、クリニックの雇われ院長の場合、クリニックの常勤医師は雇われ院長1名ということも少なくないと思います。クリニック側と退職の合意をした場合は別ですが、後任が見つからない等の理由で、一方的に退職する場合にトラブルになることもありますのでより慎重になりましょう。
例えば、雇われ院長の場合、通常、行政に対して、診療所の管理者として届出されていますが、退職後も管理医師の変更が届出されず、行政に対して管理者として届けられた状態が継続するということもあり得ます。
医療法人が運営するクリニックの雇われ院長の場合、医療法上の要請により、通常、法人の理事にも就任していますので、理事の退任についても確認しましょう。
雇われ院長の場合、退職の際に特に注意するポイント
・契約形態が雇用契約か否か
・診療所の管理者の変更手続の確認
・法人の理事にも就任している場合には、理事の退任手続きの確認
他方で、クリニックの雇われ院長とクリニックの運営主体との契約が雇用契約以外の場合、契約の内容を精査する必要があるため一概には申し上げられません。
なお、雇用契約か否かは、契約の名称ではなく実質的に判断されますが、雇用契約ではない業務委託等の契約の名称で契約書が作成されている場合、雇われ院長と運営主体との間で雇用契約か否かの見解の相違が生じ、当事者同士の話合いの段階では、雇用契約であれば認められる労働関係法令上の権利の主張が難しくなって、紛争がこじれてしまうリスクもあります。
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いかがでしたでしょうか。退職に関してよくある質問や誤解について解説しました。勤務医の皆様が置かれた状況は、1人1人違います。今後のキャリア、収入、家族のことなどご自身の状況と希望を踏まえて余裕をもって考えておくことが重要です。
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