オンコールが労働時間になる条件は?解雇の正当性は?勤務医に関する最新の労働判例を紹介【荒木弁護士解説】
今回の記事では、最近の勤務医に関する2つの裁判例を紹介します。
1つ目は、有床の産婦人科クリニックに勤務する麻酔科医がオンコール待機時間中の時間外手当等を請求した裁判例を紹介します。
2つ目は、病院に勤務する常勤の眼科の医師に対する就業状況等不良を理由とする解雇が無効とされた裁判例を紹介します。
医師のオンコール待機時間の労働時間性の問題については、 医師のオンコールは労働時間にならない?法的観点から徹底解説【荒木弁護士解説】の記事で、詳しく解説しました。
今回、麻酔科医のオンコール待機時間の労働時間性について判断した裁判例が新たに出ましたので紹介したいと思います。
有床の産科クリニックに麻酔科医として勤務していた原告が、同クリニックを運営する医療法人である被告に対して、約2年1か月分の時間外労働等に係る割増賃金等約1億9,000万円を請求した事案です。
原告の麻酔科医が労働時間であるとして割増賃金を請求した時間の中に、院外の待機時間も含まれていました。
勤務日:月曜日、水曜日、木曜日、第2・第4金曜日
所定労働時間と賃金:2019年4月1日から2020年10月20日まで午前9時~午後5時(休憩1時間)の7時間、年俸1,500万円
2020年10月21日以降午前9時~午後6時(休憩1時間)の8時間、年俸2,000万円
原告の麻酔科医が勤務していたクリニック(以下、「本件クリニック」)は、産婦人科、小児科及び麻酔科を設置するレディースクリニックであり、リスクの低い妊娠のみを取り扱う一次施設でした。
原告を含む麻酔科医は、外来を担当しておらず、主に無痛分娩及び帝王切開の麻酔を担当していました。
本件クリニックでは、計画外無痛分娩や緊急帝王切開を実施する場合、時間外に麻酔科医を呼び出すことがあり、さらには、①産後出血のために輸血をしたり、救急車で搬送したりする必要がある場合や、②胎盤娩出困難時に鎮静剤又は鎮痛剤を投与する場合にも時間外に麻酔科医を呼び出すことがありました。
呼出しの方法は、電話又はLINE(緊急性が高い場合は電話)でした。
待機の担当の割り当てについては、時期により異なっていて、以下の通りでした。
無痛分娩又は緊急帝王切開のために、時間外又は休日の待機中に麻酔科医が呼び出される頻度は、本件クリニックで計画外無痛分娩について24時間365日体制を発表するよりも前の2021年5月までは、平均して月1、2回程度、24時間365日体制の発表後は、平均して月2、3回程度でした。
裁判所は、
労基法上の労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるところ、労働者が実作業に従事していない不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には、労働者は使用者の指揮命令下に置かれていたものとして、労働時間に当たると解するのが相当である(最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁、最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)。
旨判示して、労基法上の労働時間の考え方に言及したうえで、
原告は、待機時間中、携帯電話を所持し、本件診療所関係者から呼出しの連絡を受けると、本件診療所に出勤して必要な対応を行っていたことが認められる。
このような待機方法は、いわゆる呼出し待機に当たるところ、このような呼出し待機における待機時間中に労働からの解放が保障されていたといえるか否かは、呼出しの頻度、呼び出された場合に求められる対応の迅速さの程度、待機時間中の行動の制約の程度等の事情を総合考慮して判断するのが相当である。
と判示し、原告の麻酔科医の待機の態様を呼出し待機に分類したうえで、待機時間中に労働から解放されていたか否かの考え方を示しました。
そのうえで、無痛分娩又は緊急帝王切開のための待機時間中の呼び出しの頻度が月1、2回又は月2、3回程度であったこと、産後出血のために救急車に同乗したり胎盤娩出困難時に鎮静剤又は鎮痛剤を投与したりする件数は相当少なかったとうかがわれるとし、これらを併せた呼び出しの頻度は、稀とまではいえないにしても、頻繁であるとまではいえず、原告の待機時間の労働時間性を肯定する有力な事情になるとまではいい難いと判示しました。
更に、呼出しを受けてから直ちに本件クリニックに出勤しなければならないほどの緊急性があったとは認められず、一定の時間的な余裕があったことが認められるとし、原告の待機時間の労働時間性を否定する方向に働く事情であると評価しました。
また、待機時間中は、待機時間中、飲酒や遠方への外出を控える必要があるなど、一定の制約を受けていたことは否定できないものの、それ以外に待機時間中の行動や待機場所に制約があったことはうかがわれず、食事、入浴、睡眠をとるなど比較的自由に過ごすことができたとし、原告の待機時間の労働時間性を否定するかなり大きな事情になるものというべきであるとしました。
このように、原告となった麻酔科医の呼び出しの頻度、緊急性、待機時間中の行動の制約の程度等を詳細に検討したうえで、
呼出しの頻度、呼び出された場合に求められる対応の迅速さの程度、原告の待機時間中の行動に対する制約の程度等に照らせば、原告の待機時間中の行動や待機場所に一定の制約があったことや、待機時間中にいつ呼出しの連絡があるか分からないという心理的負担があったと考えられることを踏まえても、原告が待機時間中に労働からの解放が保障されていなかったとはいえず、被告の指揮命令下に置かれていたとはいえないから、原告の待機時間は、労働時間には当たらないというべきであると判示しました。
いかがでしたでしょうか。今回ご紹介した裁判例は、麻酔科医の呼び出しのケースで、呼出し待機に当てはまります。
「医師1,746名のアンケート:オンコールの担当状況 」(2023年12月 医師転職研究所)においてもオンコールの内容は、以下のとおり、電話対応中心のものから、呼び出し中心のもの、両方あるものまで様々でした。診療科や医療機関毎に体制は様々であると思われます。
参考までに、医療従事者のオンコール待機時間中の労働時間性が争われた裁判例を紹介します。医師の裁判例ではこれまで調査した中でオンコールの待機時間の労働時間性が認められたものはありませんでしたが、訪問看護師の場合で認められたケースが出ています。
病院に勤務する産婦人科医の宅直当番の待機中の労働時間性について否定されました。
訪問看護ステーションに勤務する看護師の緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間性について肯定されました。
病院の形成外科に勤務する後期研修医の院外での切断指ホットライン及びオンコール対応について待機時間の労働時間性は否定されました。
2つ目の裁判例は、病院に勤務する常勤の眼科の医師に対する就業状況等不良を理由とする解雇が無効とされた裁判例を紹介します。
原告の眼科の医師と病院を運営する社会福祉法人は、2021年4月7日、以下の内容で雇用契約を締結しました。
契約期間:期間の定めなし(無期雇用)
業務内容:眼科医療に関わる業務、その他病院が指示する業務
就業時間:午前8時30分~午後5時まで 休憩60分
勤務日数:月~金の週5日勤務
賃金:1,600万円
原告となった医師は、令和3年7月1日から勤務を開始しましたが、法人は、12月28日、翌29日から令和4年3月31日までの自宅待機命令を命じ、同日付で解雇予告通知を交付して、令和4年3月31日をもって解雇するとの意思表示をしました。
法人は、原告の眼科医が、以下のような就業規則に定める「就業状況が著しく不良で就業に適さないと認められる場合」又は「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、就業に適さないと認められる場合」に該当するため、解雇には客観的合理的理由があり、社会通念上相当であると主張しました。
8回無断欠勤を行い、患者から多数のクレームがきた。
コメディカルスタッフに対し、連日暴言を繰り返し、看護師の背中を叩いて叱責するという暴力行為を行った。
診療に際して、機器の配置の検討や研修会の予定の確認といった診療と無関係なことを行い、患者を必要以上に待たせることが常態化していた。
法人の求人票においても手術が必須であることを記載して手術件数を多く遂行できる医師を募集して、原告が応募したにもかかわらず、自信がない等と述べて白内障手術を実施せず、在職中は1件も白内障手術を実施しなかった。
大学から紹介されて勤務していた非常勤医師に激しいクレームを行い、大学の教授や医局長に対してもクレームを行った結果、大学との協力関係を破壊した。
退職に関するやりとりを病院幹部と行う中で、幹部の言動に激高し、その場に座り込んで泣き、長時間居座るという感情的な対応をした。
裁判所は、以下のように判示しました。
①無断欠勤については、いずれの欠勤についても、体調不良を理由として、当日ではあるが本件病院に連絡をしていることも考慮すれば、これらの欠勤の事実をもって、原告の就業状況、勤務成績又は業務能率が著しく不良であると認めることはできない。
②職員に対する暴言、③不十分な診療については、暴行事案を除き、解雇後に法人から求められて作成されているなど裏付けを欠く。
④原告が眼科専門医の資格を有していることなどから、白内障手術を執刀する能力を欠いているとの被告の主張を採用することはできない。
⑤大学との協力関係の破壊については、大学から紹介された医師が勤務の終了を希望したことが、原告の責任によると断定することはできない。
⑥感情的な対応について、医師として求められる自制心を欠くものではあるが、退職勧奨に関連したやり取りに際しての行為であることに鑑みれば、この事実をもって原告の就業状況、勤務成績又は業務能率が著しく不良であると認めることはできない。
上記の事情を総合的に検討したうえで、原告について、本件病院の常勤医師として、手術実施の能力及び職員等とのコミュニケーション能力に問題がなかったとは言い難いとしても、今後本件病院の常勤医師としての勤務を継続することが困難といえるほどに、就業状況、勤務成績又は業務能率が著しく不良であると認めることはできない。
また、被告は、原告の診療開始直後を除き、原告に対する指導や注意を十分に行うことなく、本件解雇を行っているものであって、解雇に至る経過として相当性を欠くものであると判示したうえで、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当とはいえないから、労働契約法16条により無効である。
その結果、原告医師が被告において労働契約上の地位を有することが認められ、被告が原告の医師に対して毎月給与支払日に月額給与相当額の約133万円の支払いを命じられることとなりました。
勤務医の解雇の有効性が問題となった裁判例を紹介しました。法律面で見る勤務医の退職トラブル【荒木弁護士解説】で、解雇について、使用者からの労働契約の一方的解消である解雇については、余程の事情が無い限り認められないことを解説しましたが、実際の裁判例の事実関係をみると、解雇が有効と認められるためには相当な事情が無ければ難しいことが分かると思います。
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