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大学病院における医師の裁量労働制について【荒木弁護士解説】

大学病院における医師の裁量労働制について【荒木弁護士解説】

勤務医の方々は裁量労働制についてご存じでしょうか?市中病院で勤務する医師には通常、裁量労働制は適用されませんが、大学病院では裁量労働制となる場合があります。

本記事では大学病院での医師の裁量労働制について解説していきます。

1.助教以上の大学病院の医師のうち約38%に裁量労働制が適用

厚生労働省が実施した勤務医を対象とした勤務実態調査では、開設主体別労働時間制度の調査において、大学法人が開設者の場合に裁量労働制が適用される医師の割合が20.5%という結果が出ています。

また、大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書においても18%の医師が裁量労働制適用者という報告がなされています。

同報告書における職位別の適用する労働時間制度別医師数については、2024年4月時点の見込みでは、教授の場合約44%、准教授の場合約40%、講師の場合約32%、助教の場合約28%、医員以下は0人とされており、職位が上がるほど裁量労働制の適用者の割合が高くなることが分かります。

同報告書によると、医師の働き方改革がスタートする2024年4月の時点で、助教以上の大学病院の医師のうち約38%に裁量労働制が適用される見込みであるという結果になっています。

職位別の専門業務型裁量労働制の適用対象者数

「大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書」令和5年2月より引用

2.大学病院の医師への裁量労働制の適用について

(1)裁量労働制の対象業務

まず、裁量労働制について解説します。
裁量労働制とは、業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、労使協定により、実際の労働時間とは関係なく、労使協定で定めた時間を労働したものとみなす労働時間制度です。
裁量労働制には、①専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)と②企画業務型裁量労働制(同法38条の4)の2種類があります。

本記事では、裁量労働制の2つの類型のうち、大学病院の勤務医が対象となるのは、①専門業務型裁量労働制であるため、専門業務型裁量労働制について解説します。

専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、現時点で20種類の業務に限定されています。

対象となる20種類の中に

「学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)」

「人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務」

が列挙されており、この規定を根拠にして大学病院で勤務する医師に専門業務型裁量労働制が適用されています。

ここで知っておいて頂きたいのは、診療業務は、専門業務型裁量労働制の対象となる業務ではないということです。

「教授研究の業務」とは、学校教育法に規定する大学の教授、准教授又は講師の業務を意味します。

「教授研究」とは、大学の教授、准教授又は講師が学生を教授し、その研究を指導し、研究に従事することをいうものであることとされています。

「主として研究に従事する」とは、業務の中心はあくまで研究の業務であることをいうものであり、具体的には、研究の業務のほかに講義等の授業の業務に従事する場合に、その時間が、1週の所定労働時間又は法定労働時間のうち短いものについて、そのおおむね5割に満たない程度であることをいうものであることとされています。

なお、大学病院等において行われる診療の業務については、専ら診療行為を行う教授等が従事するものは、教授研究の業務に含まれないものであるが、医学研究を行う教授等がその一環として従事する診療の業務であって、チーム制(複数の医師が共同で診療の業務を担当するため、当該診療の業務について代替要員の確保が容易である体制をいう。)により行われるものは、教授研究の業務として扱って差し支えないこととされています。

このように、大学病院等において行われる診療の業務については、専ら診療行為を行う教授等が従事するものは、教授研究の業務に含まれず、裁量労働制の適用の対象とならないことに注意が必要です。

【大学病院の医師に専門業務型裁量労働制を適用する場合の留意点】

  • 主たる業務は「研究」であるか。

  • 業務遂行の手段や方法、時間配分等に「裁量」があるか。

  • 診療は研究の一環で行われており、かつ、チーム制(代替要員の確保が容易)となっているか。

※「裁量のない」業務に定期的に従事する者は、裁量労働制の適用対象外

このように、大学病院の医師に専門業務型裁量労働制が適用される場合、医師の主たる業務が研究であり、その遂行手段や方法、時間配分等に裁量があることが必要です。
専門業務型裁量労働制が適用される医師も診療に従事することは可能ですが、診療業務は研究の一環でかつチーム制であることが求められています。

(2)専門業務型裁量労働制の導入手続き

専門業務型裁量労働制を利用するためには、労使協定により以下の事項を定める必要があります。

裁量労働制の労使協定10項目

(3)労働時間のみなし

専門業務型裁量労働制が適用されると、実労働時間にかかわらず、労使協定で定められた時間だけ労働したものとみなされます。(労働基準法38条の3第1項柱書)

裁量労働制の労働時間のみなしの仕組み

(4)裁量労働制の下での深夜労働・休日労働について

裁量労働制の下でも深夜労働(午後10時から翌日午前5時までの労働)に関する規定及び法定休日に関する規定の適用は排除されません
そのため、対象者が法定休日に労働した場合や深夜労働をした場合には、労働基準法所定の割増賃金を支払う必要があります。

2018年に都内の大学において、裁量労働制で勤務する教員80人に、夜間や休日の割増賃金を払っておらず、労働基準監督署から是正勧告を受けたことが報道されました。
報道によると、大学は、教員の深夜・休日の勤務を一律自己研さんとして労働時間扱いにしていなかったが、自己研さんに区分できない職務命令により実施した診療や出張が含まれていたとのことです。

いかがでしたでしょうか。大学病院に勤務するドクターの中には、裁量労働制が適用されている方も少なくないと思います。

今回は、大学病院に勤務する医師に裁量労働制が適用できる根拠や裁量労働制の留意点について解説しました。

<参考資料>

弁護士 荒木 優子
https://araki-law.com/
第二東京弁護士会所属。勤務医の労務問題やクリニック運営に関する法律相談などが専門。医師の労働問題に関してSNSやメディアで日常的に発信し、X(旧Twitter)でのフォロワー数は1.2万人以上。

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