<医道審議会>医療事故が刑事事件になる場合とは?刑事処分から医業停止になった5つの事例紹介【荒木弁護士解説】
医道審議会については、医師が免許取消や医業停止になるケースとは?医師の不祥事の行政処分の法的根拠と基準/ 医師法違反でどれぐらいの医業停止になる?医師の不祥事の具体例と処分の内容についての記事で解説しました。
この記事では、医療事故で刑事事件で有罪判決を受け、その後医業停止等の行政処分を受けた最近の事例について紹介いたします。
医業停止等の行政処分の対象になるのは、刑事事件で罰金以上の刑が確定した場合であり、医療過誤を理由とする損害賠償請求などの民事裁判で賠償が命じられるだけでは対象にはならないので注意が必要です。
非常勤当直医として勤務していた医師が、平成27年12月29日午後9時35分頃、食物摂取による軽度の即時型アレルギー症状を呈した18歳の患者に対して、アドレナリン注射液(薬剤名ボスミン)を投与する治療を実施するに当たり、漫然と、看護師に対し、同注射液1mgを希釈せずに静脈内に注入するよう指示し、希釈することなく、点滴器具のチューブに取り付けられた三方活栓からその静脈内に注入させた過失により、同患者を致死性不整脈等に陥らせて、翌30日0時36分頃、致死性不整脈等による心停止により死亡させた事案。
罪名:業務上過失致死
判決年月日:令和2年10月12日
裁判所名:大阪地方裁判所堺支部
刑罰:禁錮1年 執行猶予3年
意識清明で脈拍や血圧等も正常であった患者に対して、ボスミン1アンプルの原液全量を一気に静脈注射するという初歩的・基本的な医学的知識の適用を怠ったという点において過失は重大であり、死亡という取り返しのつかない結果が生じたため罰金刑では軽すぎる一方、危険性を認識したうえで無謀にも危険な医療行為を実施した事案と同視できるほどの悪質さまでは認められないため実刑ではなく、禁錮刑を選択したうえで執行猶予相当とされた。
医業停止1年 令和5年2月
クリニックの院長である医師が、平成28年4月、87歳の患者に対して迷走神経性房室伝導障害に対する効能・効果を有する硫酸アトロピン「ホエイ」を処方するに当たり、同薬剤の投薬量が、通常、成人1日1.5ミリグラムを3回に分割経口投与するとされていて、1日分として1ミリグラムを3回分に分けて調剤する旨の処方箋を作成する際、電子カルテ上の薬剤の分量欄の単位が「g」となっていたことを看過し、単位がミリグラムであると誤信して「1.0」と入力し、1日分として1グラムを3回分に分けて調剤するように記載した処方箋を作成して患者に交付し、調剤薬局においてもミスが見過ごされた結果、処方箋通りの1グラムを3包に分けたうちの1包を患者が服用し、全治不詳の意識障害を伴うアトロピン中毒の傷害を負わせた事案
罪名:業務上過失傷害
略式命令年月日:令和3年4月20日
裁判所名:東京簡易裁判所
刑罰:罰金30万円
医業停止2月 令和7年3月
病院に勤務する医師がパーキンソン病により入院中の78歳の患者に対し、平成27年7月、液状濃厚流動食等を摂取させるため、経鼻経腸栄養用チューブを同患者の鼻腔から食道を経由し胃内に挿入した上、看護師に液状濃厚流動食等の注入を指示するに当たり、撮影した患者の胸部及び腹部のレントゲン画像を見たもののチューブの先端が胸腔内に達していることを見落とし、チューブを気管支から肺を経て胸腔内に誤挿入したことに気付かないまま、看護師に指示して液状濃厚流動食等を注入させて患者を肺の圧迫に基づく急性呼吸不全により死亡させた事案。
罪名:業務上過失致死
刑罰:罰金50万円
医業停止3月 令和5年11月
産婦人科医院に勤務する産婦人科医が平成28年11月、院長の指示の下、院長と共に37歳の患者に対する不妊治療としての腹腔鏡下子宮鏡併用卵管形成術を開始し、卵管カテーテル挿入操作に先立つ事前検査として、患者の子宮腔に色素水を注入し、同色素水が左右の卵管采から漏れ出る様子を確認し、左右卵管に疎通性が認められるのを確認したことから、院長が卵管形成術の継続の必要性がないものと判断し、手術終了の指示をして退室した。
しかしながら、同産婦人科医は患者の右の卵管采から漏れ出る同色素水の勢いが左の卵管采に比べて弱かったことを気にかけ、右卵管の疎通性を改善しようと、患者の子宮腔内に腟から空気を注入する通気療法について教育を受けたことや臨床経験がなかったにもかかわらず、院長の関与の下で実施せず、50ミリリットルシリンジを使用し、子宮腔内に合計420ミリリットルを超える空気を連続的に注入し、患者を空気塞栓に基づく急性循環不全に陥らせ、12月に患者を急性循環不全に起因する多臓器不全により死亡させた事案。
罪名:業務上過失致死
略式命令年月日:令和2年7月21日
裁判所名:折尾簡易裁判所
刑罰:罰金100万円
医業停止1年9月 令和6年11月
心臓血管外科医が令和元年12月、腹部大動脈瘤等の治療のため入院して心臓カテーテル室で治療中の76歳の患者(血液型はA型)に対して輸血を行うにあたり、ICUナースステーション内の準備室に輸血用血液パックを取りに行ったところ、看護師が別の患者のために用意されたB型の輸血用血液バッグを取り違えて渡したことに気づかないまま受け取り、他の看護師に渡してB型輸血用血液パックのうち約330ミリリットルを輸血させ、異型輸血に起因した播種性血管内凝固症候群に基づく多臓器不全により死亡させた事案。
罪名:業務上過失致死
略式命令年月日:令和4年7月21日
裁判所名:太田簡易裁判所
刑罰:罰金40万円
医業停止3月 令和8年2月
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いかがでしたでしょうか。比較的最近の事例で、医療事故が刑事事件化する事案は、重大な過失の事案であることが読み取れます。刑事裁判の量刑で最も重いものでも執行猶予が付いており、2019年以降に医業停止等の行政処分が行われた医療事故の事案で、先行する刑事裁判において実刑の刑事処分を課されているものはありませんでした。
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