【医療法改正】院長になるのが厳しくなる?改正後の管理者要件で医師に課せられる条件とは?【荒木弁護士解説】
2025年12月、医療法等の一部を改正する法律が国会で成立しました。報道をご覧になられた医師の方々も多くいらっしゃると思います。
医師の皆様の関心が高い保険医療機関の管理者(院長)の要件について、厚生労働省に問い合わせた内容を含めて解説いたします。
なお、以下の内容は、医師の場合を想定しております。歯科医師の場合は、医師と異なる点もあるためご注意下さい。
2025年12月に成立した改正医療法では、高齢化に伴う医療ニーズの変化や人口減少を見据え、地域医療構想の見直し、医師偏在是正に向けた総合的な対策、医療DXの推進を内容としています。
医師にとって影響が大きく関心事である保険医療機関の管理者の要件について解説します。
保険医療機関の管理者、いわゆる管理医師(院長)について、2026年4月1日より、次の①②の要件を満たす者であることが定められました。
①現に保険医であること
②医師法又は歯科医師法に規定する臨床研修修了後に、保険医療機関(医科の場合は病院に限る。)において3年以上診療に従事した経験その他の厚生労働省令で定める要件を備える者
なお、初期研修を修了しなければ、病院又は診療所の管理者となることができません。(医療法10条1項、2項)
また、初期研修を修了していない医師が、診療所を開設する際は届出ではなく、都道府県知事の許可が必要となります。(医療法7条1項)
2026年4月1日時点で臨床研修を修了していない場合、保健医療機関の管理者となるためには、原則として、臨床研修修了後に、保険医療機関である病院において3年以上診療に従事すること(診療従事要件)が必要となります。
「医科の場合は病院に限る」と規定されていますので、医師の場合は、診療所(クリニック)ではなく病院における診療経験が要求されています。
なお、2026年4月1日時点で臨床研修を修了している場合は、臨床研修期間を含め、3年以上保険診療やその他の業務に従事した経験を有していれば要件を満たします。こちらは病院だけでなく診療所(クリニック)も含まれますので、ほとんどの臨床医が要件を満たしていることになると思います。
「保険医療機関の管理者の要件・責務について」(厚生労働省)より引用
医師の保険医療機関である病院での3年以上の診療経験の計算方法について、厚生労働省が公表している資料では、「週4日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週31時間以上」を基本とし、1ヶ月単位で満たすか否かを判断し、これを36ヶ月満たすことを原則求めることで検討されています。検討段階であり最終決定ではないため、最新の情報を改めて確認して下さい。
なお、上記勤務要件を満たさない場合でも以下の場合は、配慮するとされています。
(1)所属する医局や法人の人事の都合により、1週間に複数の保険医療機関で勤務する必要がある者は、勤務要件について、「1つの保険医療機関において週2日以上常態として勤務、かつ、勤務する保険医療機関における診療に従事する時間の合計が週31時間以上」と緩和する。
⇒例えば、医局人事の都合により複数の保険医療機関(病院)で勤務する場合には、合算した診療時間が考慮されます。
(2)育児・介護により、所定労働時間が短縮されている者は、勤務要件について、「週4日常態として勤務」を求めないとともに、所定労働時間を週30時間以上に緩和する。
⇒育児や介護で時短勤務をしている場合も要件が若干緩和されることになります。
(3)大学や大学院等に在籍しており、学業や研究等が本業である上で、診療に従事している者については、週2日以上常態として勤務、かつ、診療に従事する時間が週16時間以上である場合は、当該期間の1/2を経験年数に算入することを可能とする。
⇒大学や大学院に在籍し、学業や研究を本業とする医師が、診療にも従事している場合に関係がある事項です。
育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度は、原則1日6時間です。詳細は、勤務医と育児の両立に役立つ制度~時短勤務・残業免除~【荒木弁護士解説】をご覧ください。
診療従事要件の原則は、週4日以上の常勤かつ週31時間以上の勤務ですが、所定労働時間が1日6時間で5日間勤務した場合、週の勤務時間が30時間となり原則の要件を満たしません。
なお、例外として育児・介護により時短勤務している場合には、週4日以上の常勤勤務を求めず、週30時間以上に緩和されるとのことですが、この場合、所定労働時間1日6時間で週5日間の勤務であれば30時間になりますが、週4日の勤務では24時間となり「30時間以上」の緩和された要件でも満たさなくなります。
診療従事要件を満たしていない医師で、今後、時短勤務の取得を検討されている医師は、診療従事要件についても確認したうえで勤務時間や日数を検討するのが良いと思います。
なお、改正により要件が加わったのは、保険医療機関の管理者の要件ですので、保険診療を行わないクリニックの管理者については、従前どおり初期研修を修了していれば、就任することが可能です。
いわゆる「直美」(ちょくび)との関連で管理者要件の追加が問題に挙げられることがありますが、初期研修を修了していれば、保険診療を行わず自由診療のみを行うクリニックの管理者(管理医師、院長)になることは従前どおり可能です。
初期研修修了後に保険医療機関である病院での3年以上の診療経験が無い場合でも省令で定める要件を備える場合は、保健医療機関の管理者となることが可能です。
例外の類型と例は、次の通りです。
例)
例)
例)
例)
診療従事要件を満たさない場合でも以下の経過措置が設けられており、改正直後の影響は限定的です。
(1)施行日(令和8年4月1日)において、現に保険医療機関※1の管理者である者は、3年間は要件を満たさない場合でも、引き続き保険医療機関の管理者であり続けることが可能※2。ただし、この経過措置は施行日から同一機関の管理者である間に限って適用すること。
(2)施行日において、現に臨床研修を修了した医師又は歯科医師である者は、現に保険医であるとともに、「保険医療機関※3において3年以上保険医として診療その他管理及び運営に関する業務を行った経験」を有する場合(法に規定する要件に比べ、診療以外の業務も行うことを認める緩和した要件)は、保険医療機関の管理者となることが可能。
※1,※3……医師の場合も病院だけでなく、診療所(クリニック)の管理者まで含まれる。
※2……3年経過後は、(2)の「」の経験の要件を満たすようになるため引き続き管理者となることが可能。
もっとも、この経過措置の内容が難解なため、筆者が2026年3月2日、厚生労働省保険局に電話で問い合わせて確認した内容を記載します。
例えば、施行日時点で、診療従事要件を満たさない医師が保険医療機関である診療所(クリニック)の管理者をしている場合、経過措置(1)により3年間は引き続き同一医療機関の管理者であり続けることが可能となります。
そうすると、3年経過後は、管理者であり続けることができなくなるようにみえますが、3年間診療所(クリニック)にて管理者を務めると、「保険医療機関において3年以上保険医として診療その他管理及び運営に関する業務を行った経験」を有することになるため、(2)の要件を満たし、管理者を継続できます。
注意すべき点として、経過措置における保険医療機関は、医科(医師)の場合も、病院だけでなく診療所も含むということですので、2026年4月1日時点で臨床研修を修了した医師については、診療所(クリニック)を含む保険医療機関での経験年数が3年以上あれば良いということになります。
改正医療法による改正後の健康保険法により保険医療機関の管理者の責務が新設され、適正な医療の効率的な提供を図るため、勤務する医師その他の従業者の監督や保険医療機関の管理・運営について必要な注意をしなければならないと規定されました。
健康保険法70条の2(保険医療機関の管理者の責務)
保険医療機関の管理者は、適正な医療の効率的な提供を図るため、厚生労働省令で定めるところにより、当該保険医療機関に勤務する医師、歯科医師、薬剤師その他の従業者を監督するとともに、当該保険医療機関の管理及び運営につき、必要な注意をしなければならない。
保険医療機関の管理者の責務の具体的な内容は、保険医療機関及び保険医療養担当規則(以下、「療養担当規則」)にも定められます。
療養担当規則の改正案が公表されており、上記健康保険法に定める責務のほか、以下の①~④の責務が追記されています。
①保険医療機関内の保険医が療担規則の第2章「保険医の診療方針等」を遵守するよう監督すること。
②保険医療機関内において、療養の給付に関する厚生労働大臣等に対する申請、届出等に係る手続や療養の給付に関する費用の請求に係る手続が適正に行われるよう監督すること。
③保険医療機関内の診療録の記載及び整備並びに療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録の保存が適正に行われるよう監督すること。
④保険医療機関内の医師、歯科医師、薬剤師その他の従業者の連携を図るとともに、地域の病院若しくは診療所その他の保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携を図ること。
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いかがでしたでしょうか。2026年4月から施行される改正医療法の保険医療機関の管理者要件について解説しました。現時点(2026年3月)でまだ解説や情報が少なく、今後の厚生労働省の追加の説明等を待ちたいと思います。
新たに始まる制度ですので、診療従事要件の原則の「週4日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週31時間以上」ではなく、例外規定により要件を満たすことを検討する医師は、直接厚生労働省に問い合わせる等して自身の働き方で要件を満たすか確認することを推奨します。
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